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東京高等裁判所 平成11年(行コ)260号 判決

控訴人

控訴人

右両名訴訟代理人弁護士

鳥飼重和

多田郁夫

森山満

遠藤幸子

村瀬孝子

今坂雅彦

橋本浩史

吉田良夫

被控訴人

川崎南税務署長 黒澤政夫

右指定代理人

松村葉子

下岡守彦

屋敷一男

伊藤浩視

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が、控訴人甲に対し、平成六年七月二九日付けでした、平成四年二月一一日被相続人丙の相続開始にかかる相続税の更正処分(左の3の丁がした相続税の申告に対する更正処分と合わせて、以下「本件各更正処分」という。)のうち、課税価格二億二七〇六万二〇〇〇円、納付すべき税額六八六〇万一二〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(左の3の丁がした相続税の申告に対する過少申告加算税賦課決定処分と合わせて、以下「本件各賦課決定処分」という。)をいずれも取り消す。

3  被控訴人が、丁の相続人である控訴人らに対し、平成六年七月二九日付けでした、平成四年二月一一日被相続人丙の相続開始にかかる相続税の更正処分のうち、課税価格二億九六四五万三〇〇〇円を超える部分、納付すべき税額全額及び過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

控訴棄却

第二事案の概要

丙が死亡したことに伴い、妻である丁と子である控訴人甲は、相続税を申告するに当たり、丙の有していた有限会社Aの出資(持分)を相続財産として、国税庁長官が各国税局長宛に発した財産評価基本通達(昭和三九年四月二五日付け直資五六、直審(資)一七(平成六年六月二七日付け課評二―八・課資二―一一三による改正前のもの。)以下「評価基本通達」という。)にしたがって、法人税等相当額を控除して評価して申告した。その後丁が死亡した後、被控訴人は右控除は認められないとして本件各更正処分及び本件各賦課決定処分(以下合わせて「本件課税処分」という。)をした。控訴人らはこれを不服として被控訴人に対し異議を申し立てたが、被控訴人がこれを棄却したので、国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、同所長はこれを棄却した。そこで、控訴人らは本件課税処分の取消しを求めて本訴を提起した。原審は、Aの設立は、現実の経済的活動を主目的とする会社設立というより、専ら租税回避のためにする外形上の会社の作出というに等しいので、評価基本通達を形式的、画一的に適用して法人税等を控除することは、右通達の趣旨に沿わず、一般納税者との間の公平を害し相当でなく、右事情は評価基本通達六にいう特別の事情に当たるから、評価基本通達を適用せず法人税等の控除を認めなかった本件課税処分は適法であるとして、控訴人らの請求をいずれも棄却したので、控訴人らがこれを不服として控訴した。これが本件事案の概要であるが、そのほか原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」欄一及び二に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決を次のとおり改訂する。

1  原判決書六頁六行目の「、国税庁長官が」から同頁一〇行目の「この基本通達によれば」までを「評価基本通達があり、これによれば」に改める。

2  同一五頁六、七行目の「消滅する」を「消滅させる」に改める。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人らの本件請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、原判決の「第三当裁判所の判断」欄に記載するところと同旨であるからこれを引用する。ただし、原判決書四一頁一行目の「法人税相当額」を「法人税等相当額」に改め、控訴理由にかんがみ、控訴人らの主張に対する当裁判所の判断を次のとおり付加しておくこととする。

二1  控訴人らは、本件のように取引相場のない株式・出資については、評価基本通達を適用することができない場合であるならば、法二二条に立ち戻って「時価」を評価することになるから、被控訴人はその主張する額が時価であることについて立証すべきところ、原審は、この点について被控訴人の特段の立証がないのに合理的であると判断している旨、原審の判断を論難している。

しかし、既に説示したとおり、評価基本通達は、個人企業とほとんど変わるところがない小会社の株式は、その会社の資産に着目して取引されるのが通常であり、その株式の評価は、会社の総資産の価額を発行済株式数で除するという純資産価額方式により評価するということが合理的であることから、右方式によることを明らかにしたうえで、会社が相続の開始によって事業の継続が不可能になる場合や相続人が会社の資産を自己のために自由に利用あるいは処分したい場合には、会社を解散、清算することにより被相続人が所有した株式数に見合う財産を手にするほかないところ、その場合に、法人に清算所得(いわゆる含み益)があった場合には、その清算所得に対して法人税等が課せられるため、個人事業者が直接に事業用資産を所有している場合に比して法人税等相当分だけ実質的な取り分が減少することから、個人が株式の所有を通じて会社の資産を間接的に所有している場合と個人事業主として直接に事業用資産を所有する場合との評価の均衡を図るために、政策的に、このような株式の評価に当たっては法人税等相当額を控除することにしたものであって、右の趣旨に照らして控除を認めないことが相当と認められる事情があったからといって、これにより、会社の総資産の価額を発行済株式数で除するという純資産価額方式により株式を評価することの前示した合理性自体が左右されるものではない。したがって、純資産価額方式によりつつ、法人税等相当額を控除せずに評価したことにより得られた価額が法二二条にいう時価に当たるとした原審の判断は相当であって、この点に関し原審の判断を論難する控訴人らの主張は採用することができない。

2  なお、当審において提出した甲第二五号証及び二九ないし三二号証についての証拠説明書の記載によると、控訴人らは、著しく低い帳簿価額による現物出資の受入れによって発生した評価差額に対する法人税等相当額を控除しない取扱は、平成五年一〇月の事務連絡で示されるとともに、右の趣旨に沿って平成六年六月二七日付けで評価基本通達が改正されたにすぎないのであるから、本件各更正処分は右の取扱を控訴人らに不利益に遡及適用したものであって違法・不当である旨を主張するようにもみえる。

しかし、控訴人らが指摘する事務連絡ないし改正は、取引相場のない株式等を現物出資により著しく低い価額で受け入れたことによる評価差額に対する法人税等相当額を控除しないことを明示的に定めたものにすぎず、もともと、これらをまたなくても、評価基本通達六にもその理が明らかにされているとおり、評価基本通達に定められた評価方式を形式的、画一的に適用することにより、租税負担の公平を著しく害し、また、富の再分配機能を通じて経済的平等を実現するという法の立法趣旨に反する著しく不相当な結果をもたらす場合には、評価基本通達に定められた評価方式を形式的、画一的に適用せず、その時価を評価すべきであったと解すべきであり、右取扱は後日された事務連絡ないし改正を遡及適用したものではない。この点に関する控訴人らの右主張も採用することができない。

三  よって、控訴人らの本件請求は理由がなく、これをいずれも棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれをいずれも棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条、六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。

(平成一二年六月二二日当審口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 小川英明 裁判官 宮岡章 裁判官 川口代志子)

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